
働き方四者四様
伝衛門 いや~、とうとう引退しちまいましたね、プロレスラーの小橋健太選手。なんだかさみしっすね。プロレス界の火が消えたようでやんすよ。
お毒 アタシは三沢派だったけど、小橋選手は応援したくなるムードをプンプン漂わせていたわね。よく言えば熱血漢、悪く言えば、トレーニングバカだけど。ま、あの日本人離れした上腕二頭筋は、練習のタマものなんだろうねぇ。
伝衛門 24時間練習していたって伝説がありますもんね。飯を食いながら左手でバーベル、海外遠征の際でも道場へ寄って練習してから、夢の中でもトレーニング…と暇さえあれば筋肉をいじめていたって話ですぜ。
お毒 アマレス出身者や角界から転向組など、周囲がエリートアスリート出身の中、サラリーマンを経てのプロレス入りだったからね。練習量でしか、ライバルには追いつけない。そんな思いで、体をいじめ抜いていたのよねぇ。そういう努力がリング上でもにじみ出てたから応援したくなるのよねぇ。
猫田先生 小橋選手とは知らない仲じゃねぇから言うけど、ホントにすごい男だったよ。現役バリバリのころは、全日プロの強豪怪人相手に真っ向勝負を挑んで何度も玉砕。それでも這い上がってトップに上り詰めた。敵は外人だけじゃない。癌にも打ち勝ってリング復帰を果たした。復帰後も中途半端なファイトはせず、その結果大ケガ。そこからの復帰戦が引退試合になったワケだけど、まさかの月面水爆を決めたからね。まさにプロの鏡のような仕事っぷりだね。最高の引退試合だったな。
お毒 でもこれで、四天王時代が完全に終わったのね…。それにしても働き方、というか仕事っぷりがほんとにバラエティに富んだ4人だったわね。とにかく全力で突っ走る小橋選手、天才肌でカリスマ性もあった三沢選手、リングで殺気を出す職人肌の川田選手、天性の素質ながらマイペースをつらい抜いた田上選手。誰がすごい、というより、いろんなスタイルがあって、それがリングの上で交錯することで毎回違う化学反応を起こして…。カウント2.9には何度も手に汗を握って体をよじらせていたわ。ホントにいい時代だったわねぇ。
猫田先生 企業でいえば、同世代が張り合うってのは、活気が出る。天龍が離脱し、危機に陥った全日プロをまさに骨身を削って4人が救ったあの時代は、サラリーマンにとってもどっぷりと感情移入したくなる展開で会場は毎回すさまじい熱気に包まれてたよな。社長である馬場さんがその姿に涙を流したときはさすがにワシももらい泣きしたもんだぜ。そもそもレスラーってのは職業としてはせいぜい50歳が肉体的に限界。だから人生の縮図じゃねぇけど、リングの上は濃密。リング上で殉死した三沢選手なんて、結果的には全てをプロレスにささげることになったし、引退という言葉を使わず、リングを遠ざかった川田選手なんぞは、それそれはそれで美学だよな。仕事っていうとスケールが小さくなるが、働くってのはやっぱり人生を捧げることと同じ。プロレスファンには会社にぶら下がってるような会社員も多いわけだが、分かっていながらだらしない自分の代弁者として、リング上が半端ないからあれだけの声援を送るんだな。
伝衛門 あっしは今は亡き、ラッシャー木村選手がひいきでやんした。アノいかつい顔で馬場さんに「アニキィ」とマイクで呼びかけるギャップと世渡りのうまさに感情移入してたでやんすよ。
お毒 そっちなの? アンタらしいわね。ところで小橋選手は引退後、どうするのかしら。リング上では完全燃焼したわけだから、次に燃えられる場所ってどこだろう。トップレスラーのセカンドライフで多いのは政治家だけど、まさか小橋選手がねぇ。「熱血党」でも設立して、冷え切った国民のハートに熱い魂を注入するってのも、面白い気はするけど。引退試合は元首相が最前列で観戦してたそうだし、夏には参院選もある…。あらやだ、ねぇ、猫田のお師匠さん、何か知らないの?