働き方

選手としても社員としても同等に評価する女子サッカーチームが目指す“働き方”

投稿日:2019年3月28日 / by
会見に臨むFCふじざくら

左から地元山梨出身の引田ちひろ、菅野監督、工藤選手

目指すはアスリートの新常識――。プロアスリートは競技だけで食べていく。それが常識であり、プロとしてのプライドだろう。だが、現実にはプロになっても成功するのはごく一部。その後の人生には何の保証もないのが実状だ。2018年11月に発足した女子サッカーチーム「FCふじざくら」は、そうした“陰”にしっかり向き合い、新しいアスリート像の構築を目指している。

選手と正社員を両立するプレイングワーカー制度とは

プロアスリートは、競技によって報酬を稼ぎ、それで生活していく。多くの人がそう認識しているだろう。それは間違いない。だが実際には、その名声や“貯金”で生活していけるのはわずか3%といわれる。100人いれば、わずか3人しかプロアスリートとして生涯安泰ではないのだ。

「FCふじざくら」は、そうしたプロの在り方に大きな変革をもたらすチャレンジとともに発足した。それは、競技も仕事も両方頑張るアスリートで構成するチームづくりだ。ベースとなるのは、プレイングワーカー制度。チームとしてなでしこリーグを目指す一方で、クラブの母体となる富士観光開発(株)(山梨県南都留郡)の正社員としても週4日8時間勤務するというスタイルだ。

富士緑の休暇村

ゴルフ、レジャー、不動産など多様な事業を手掛ける富士観光開発の運営施設が所属選手の職場と練習拠点に

実業団チームと似ている側面もあるが、大きく違うのはその評価だ。プレイングワーカー制度では、選手としての活躍はもちろん、正社員としても他の社員同様に職場での仕事ぶりもしっかり評価する。まさにプレーと仕事の両立で総合評価し、“社会人”としてのマナーやスキルもしっかりと磨き上げる。

「評価についてはチーム成績に応じたインセンティブはもちろん、正社員としての仕事ぶりも同じようにみます。どちらかが主ということでなく、両方をしっかりと査定するのが基本」と金子智弘GM。実業団チームの場合、圧倒的に競技活動が主で仕事は従というケースが多い。業績の低迷でチームを解散することも珍しくない。だが、同クラブでは、選手と正社員の境目はなく、どちらも頑張ることが標準で、その結果としてチームも母体企業もハッピーになるという考え方だ。

選手としても社員としてもスキルアップに妥協なし

そうなると、トレーニング時間の制約などクラブ強化への不安がよぎる。実際、週4日の勤務時は、練習時間は夕方になる。だが、その点でも一切妥協しないところが、同クラブが注目されるゆえんだ。なんと、監督に菅野将晃氏の招へいに成功。同氏は、Jリーグでの監督経験もあり、なでしこリーグでも上位に食い込む成績を残している。正社員としてもしっかり評価するが、あくまで目指すのは女子サッカークラブの頂点。監督の人選からも、同クラブが単なる選手の“安定保証”でなく、本気でアスリートの常識を覆そうとする気概があふれている。

「オファーをお受けした一番の理由はタイミングですが、新しいことにチャレンジすることが好きな性分もある。ゼロからのスタートは前にも経験しているので楽しみだ。『プレイヤーズファースト』という言葉があるが、選手にとって競技人生より残りの人生の方が長い。そこをケアすることが本当のプレイヤーズファーストじゃないかという思いもある」と菅野監督は、異例尽くしのチームへの熱い思いを語った。

工藤麻未

菅野監督を慕い引退を撤回して合流した工藤

引退を撤回し、クラブ入りを決めた工藤麻未は「目標は今年1年でのチャレンジリーグ参戦」とキャプテンとして力強く宣言。その上で、プレイングワーカーとして「正社員としての仕事は幅広いのでとにかく楽しみ。選手としてはもちろん、社会人としても成長できるので本当にありがたいです」と新たな挑戦に心を躍らせる。

選手選考では、「正社員としての資質も見極めた」(金子GM)という異例のチーム。アスリートはセカンドキャリアの問題と常に背中合わせだが、同クラブが辣腕監督の下で、快進撃。女子サッカーの頂点を極める日が来れば、その瞬間、プロアスリートのキャリアに対する考えも一変することになる。日本スポーツ界全体の底上げにもつながるチャレンジだけに、その成り行きは大いに注目だ。

なお、チームは、2019年5月12日に開幕する山梨県リーグから、女子サッカーの頂点を目指すことになる。

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