働き方

55歳以降で転職を成功させたシニアの共通項とは【瓦版書評】

投稿日:2016年5月7日 / by

シニア社員はお荷物なのか

高齢社会の現実を描くシナリオは、たいていは暗い。老いは衰退であり、職場においては厄介者という見方を前提としているからだろう。確かに、年を取れば、若いころのような機敏さはなくなる。体力も落ちる。にもかかわらず、モノを申しづらい。その上、報酬も多い。組織全体で見たとき、どうしてもコスパが悪くみえてしまう…。とりわけ、報酬の少ない若年層からみれば、「もっと働け」、「少しはこっちへ回せ」と、つい突っ込みたくなる気持ちも分からなくはない。

年金じゃ足りない収入を得る仕事100(KADOKAWA)

「年金じゃ足りない収入を得る仕事100」(KADOKAWA)。タイトルと内容には少し違和感が…

だが、人間という生き物は、余程の怠慢でない限り、加齢による衰えとともに、熟練というスキルを手にすることで、若年時より着実に進化する特長がある。積み上がった経験は、若者の機敏さや瞬発力を十分にカバーする。若者が1時間で100歩進むなら、シニアは10分で100歩進む。若者が1000万円を1週間で稼ぐなら、シニアは1日で1000万円を稼ぐ。残念ながら、持久力が落ちているため、ハイスペックの継続こそ難しいが、戦力としては、十分に使える。しっかりと使いこなせば、コスパは全く問題にならない。

使い方次第で、若者の何倍もの生産性を発揮するシニアワーカー。年功序列はすでに風前の灯火だが、色濃く残るその残像によって、悪者扱いされるのは、不憫でしかない。企業という小さな単位でなく、社会全体を俯瞰して見渡せば、長年の経験で“進化”したシニアには、いくらでも可能性が広がっている事が分かるだけに、経営者も自社の“高齢問題”にもう少し、希望を持って取り組むべきだろう。

華麗な転身を果たしたシニアに共通すること

映画好きが高じて大手書店のシネマコンシェルジュへ、印刷会社営業からタクシー乗務員へ、会社員から植木職人へ、PCメーカーから登山ガイドへ…。同書には、転身といえる大胆な転職を実現し、充実した日々を送る19人の横顔が、第一章で描かれている。その全員がオーバー55歳。年を重ねるほどに職を得るのが困難という常識は、これらの事例を見る限り、都市伝説とさえ感じてしまう。

登場する19人のシニアが、並外れた実力者というわけでは決してない。確かに、身の振り方については十分に頭をめぐらし、決断力も普通よりはすぐれているのかもしれない。だが、それが特別にすごいことかといえば、そんなことはないだろう。例えば、外資系の情報販売会社に長年勤め、情報処理会社へ転職を果たした人のケースでは、最優先にしたのはこれまでのキャリアの100%の活用。それが唯一最大の武器になるのだから当然の判断だろう。多くの人が、大胆に見えて、この事例のように「これまでのキャリアを活かす」という、したたかな戦略を駆使し、スムーズな転職を実現している。

会社員から植木職人へ転身した事例もあるが、定年退職後のことであり、転職というよりも余生の過ごし方に近いニュアンスだ。その意味で、シニア世代の新たな居場所確保には、やはり培ったキャリアを活かすことが最善といえる。何も難しいことはない。問題は、培ったキャリアが本物か否かということだ。忠誠心だけでキャリアを構築した人にとっては、振り返ったとき、自分に何ができるのかが、不明瞭になりがちだ。だから、「○○商事で部長をしていました」と採用担当にとってはどうでもいいことに胸を張ってしまう。

第二章には、そうしたちょっと痛いシニアの敷居を下げるような、シニアを積極採用する企業55社が紹介されている。さらに第三章ではシニアがとっておくと便利な資格24種が掲載されている。まさにシニアワーカーの身の振り方を、シニア目線で助言し、その背中を押す内容が同書には詰まっている。モヤモヤしがちな40代以降の会社員生活の元凶が、成功事例がまだ少ないことだとすれば、同書は現役シニアのこれからの働き方の参考書として、じわじわ染み渡る滋養剤のような効果をもたらしてくれる一冊といえるだろう。

読み物コンテンツ

働き方白書について
仕事相談室について
極楽仕事術について
三者三様について
戦略的転職について
用語集について