辞めたくないのに会社側が退職を強要!さてどうする
経営が苦しくなったら社員を減らしたいのは、会社側の常!
正社員になることが夢――そんな要望を題材にした転職サイトのCMなどもよく見聞きする時代になっています。反面、企業は派遣社員やバイトなどの非正規雇用で本体をできるだけ身軽にしたがっています。つまり、必要な時に必要な人材を効率よく調達し、経営が苦しくなったらサッサと契約を切りたいのです。
過剰な残業がとかく問題になっていた時期もありましたが、正社員も派遣社員もバイトの人も、突然に会社から退職を申し渡されることがあります。その日に呼び出されて「今日でクビ」「明日から会社来なくていい」などという会社も少なからず実在しました。言われたその日に荷物を全部持って帰り、猶予期間も引き継ぎも認めないという超ブラックな社風さえふつうに在ったものです。
しかし労働問題が浸透するにつれ、会社側も労働法上の問題で訴えられないように、賢くなり、配置換えや役職の降格、左遷などでじわじわと自ら退職届を出すような例が横行しています。
しかし、働く側として退職したくないのは今も同じ。こんな時はどうやって会社と戦えばいいのでしょうか? ピープルズ法律事務所の森川文人弁護士に伺いました。(powered by シェアしたくなる法律相談所)
会社側はどのように退職を促してくるか
森川弁護士「まず知っておきたいのは、会社側の退職の促し方です。はっきり口頭や書類で退職を要求するのは“解雇通告”。これは分かりやすいですね。就業規則などを根拠になされます。
問題になるのは“退職勧奨”と“退職強要”です。やんわり退職を勧めているのか、それとも強要しているのか。これは個別に事案によって判断されます。あなたが“強要だ”と思っても、第三者には“勧奨”ととられる場合もあります。
なので、できれば普段から証拠として相手の発言や周囲の嫌がらせなどがあればそれも録音しておくことです。もし書類があるなら、しっかり保管しましょう。どこに訴え出るにしても、最後は言った言わないの争いになることもありますし、証拠は多いほうが良いでしょう」
正式な“解雇通知”でなく、口頭で「おまえなんてやめちまえ!」などと恫喝する上司がいるようなら、会社にいる時間は辛いでしょう。しかし、それをしっかり録音していたらこちらの思うツボというわけです。
しかし、「君の職場は今日から倉庫だよ」と口頭で言われ、暗に退職に追い込もうとしている場合などは少し厄介です。突然言われると録音も間に合わない場合もありますが、少し会話で粘りながらスマホで録音したり、正式な辞令を書類で出すように要望したりしてみましょう。
会社側が自分をクビにしたがっていると少しでも感じ始めたら、証拠集めを意識してください。
遠回りに退職させることは法律に反しているのか?
森川弁護士「“退職勧奨”はあくまで労働者の自由な意思による退職の勧め、という範囲を超えない限り、ぎりぎり合法です。
しかし、真実を伝えない、虚偽を伝える、などにより労働者が辞めざるを得ないと誤信させたような場合、民法95条違反の“錯誤無効”となるとされています。
また、限度を超えた場合は、労働者に慰謝料の請求(民法709条、710条)を認めた判例があります」
会社側は労働者に抵抗されないよう、ぎりぎり合法な線で退職をせまってくることでしょう。社内で「あそこの部屋行きはクビ候補ってことだよ」などと囁かれている噂もあるはずです。そうした同僚の証言もできるだけ集めましょう。
退職する際にするべきこと
会社側からの圧に耐えられなかったり、会社を見限ったりして実際に退職する場合は、会社から退職金をしっかりもらいましょう。
森川弁護士「労働者は、退職金の定めがあるか、またその計算方法はどうなっているかを社内の規定を調べて知っておく必要があります。
さらに、退職する場合は“離職証明書”を発行してもらわないと雇用保険を受け取れません。この時、自己都合か、会社都合かで雇用保険が受け取れる期間もかわりますので、その点も注意してください」
ちなみに、経営者側が労働者にクビを申し渡したにも関わらず、この“離職証明書”を“自己都合”で発行してくるという実例もありますから要注意です。退職当日はなにかと慌ただしく証明書の記載内容まで細かく気が付かないこともありがちですが、このような場合はぜひとも会社に強く主張をして “会社都合”に書き換えさせる必要があります。
ブラック企業は最後まで油断ができませんので、お気をつけて!
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*記事監修弁護士:森川文人(ピープルズ法律事務所。弁護士歴25年。いわゆる街弁として幅広く業務を経験。離婚、遺産相続をはじめ、不動産、 慰謝料・損害賠償請求、近隣トラブル、借地借家、賃金、インターネット問題、知的財産権などを扱う。)
*取材・文:梅田勝司(千葉県出身。10年以上に渡った業界新聞、男性誌の編集を経て独立。以後、フリーのライター・編集者として活躍中。コンテンツ全般、IT系、社会情勢など、興味の赴く対象ならなんでも本の作成、ライティングを行う。)