働き方

乗客のけんかで電車遅延…これ損害賠償請求したい!

投稿日:2020年12月3日 / by

迷惑だし!仕事に行けずに商談が流れたりしたら大損害だし!

数年前に、ある参議院議員が田園都市線の遅延に関し「遅延度に応じて料金を割り引く制度の導入を提案する」とTwitterで発言し、話題になったことがありました。

定刻運行のためにリスクのある無理な運行をするより安全性を重視すべきとの声が多かったものの、電車遅延によって大切な用事に遅れてしまうのは困り物です。

この議員さんの言うように鉄道会社、あるいは遅延の原因を作った乗客などに責任を問うことはできるのか、桜丘法律事務所の大窪和久弁護士にお聞きしました。(powered by シェアしたくなる法律相談所
電車遅延で損害賠償

遅延が発生した際に乗客は鉄道会社に損害賠償できるのか

議員さんの主張は「料金を割り引く制度の導入を提案する」と鉄道会社の責任を問う姿勢でしたが、国交省の「遅延対策ワ―キンググループ最終取りまとめ」では、遅延の発生原因の94%が混雑やドア挟みなど乗客などによるものとなっています。

遅延の原因が乗客同士のけんか酔っ払いの線路内立ち入りなどの場合、乗客は鉄道会社や遅延の原因となった人物や対して、損害賠償請求ができますか?

大窪弁護士「まず、乗客が鉄道会社に対して損害賠償できるかどうかが問題となります。乗客が電車を利用する場合、乗客と鉄道会社の間に旅客運送契約が成立することになり、この契約に基づいて電車により乗客が目的地に移動することとなります。

ただ鉄道会社はこの旅客運送契約に関して営業規則を定めており、規則上鉄道会社は運航不能や2時間以上の遅延の場合などには料金の払い戻しはするものの、それ以上の損害等について責任を負わないことになっています。したがって、乗客が鉄道会社に対して損害賠償することはできません」

なんと、電車に乗る時点で鉄道会社と乗客との間でこの旅客運送契約は成立しているそうです。知らずに電車を利用している方も多いのではないでしょうか?

大窪弁護士「過去にこの営業規約の有効性について裁判で争われたことがありますが、裁判所は、営業規則で免責規定を設けることには相応の合理性を認めることができることから、鉄道会社は旅客運送契約上、本件列車遅延による精神的損害について損害賠償責任を負わないとして乗客側の請求を認めませんでした(平成18年9月29日東京地裁判決)」

遅延の原因を作った人物に対してはどうなる?

では、遅延の原因を作った人物に対しての損害賠償請求はどうでしょう?

大窪弁護士「上記裁判例の理屈からすると、運送契約上、そもそも乗客には遅延することなく運送してもらう権利自体がありません。先例となる裁判例等がないため考え方はわかれるかもしれませんが、遅延の原因を作った乗客に対する請求についても難しい点があるのではないかと思います」

契約上、遅延することなく運送してもらう権利自体がないというのはちょっと衝撃的です。現代では電車は遅れずに到着するのが当たり前と思われていますが、それはそういう契約だからではなかったのですね…。

鉄道会社による損害賠償

では、鉄道会社から遅延などの原因を作った人物に対して損害賠償が請求されることはあるのでしょうか? 電車を止めると高額の請求をされるという噂もありますが…。

大窪弁護士「マスコミ報道でも話題になりましたが、線路内に立ち入って事故が起こった結果、列車の遅れが生じたとして、事故を起こした故人の遺族に対して鉄道会社が損害賠償を起こしたことがあります。

この時に鉄道会社は、振替輸送代や乗客対応にかかる人件費として合計約720万円の請求を遺族に対して行っています。この件で裁判所は故人に責任能力がないこと、および遺族に監督義務がないこと等を理由として鉄道会社の請求を認めませんでした(平成28年3月1日最高裁判決)。

しかし、そのような事情が無ければ列車の遅れが生じたことによる損害について故人が責任を負った可能性があります。また、線路の立ち入りということでなく乗客が列車に遅延を生じさせたという場合でも、不法行為としてそれに対する実損を鉄道会社から請求される可能性は十分あります」

遅延を生じさせる原因を作れば損害賠償請求される可能性はあるようです。遅延の原因を作らぬよう、マナーを守って利用したいものです。

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*取材・文:ライター 松永大輝(個人事務所Ad Libitum代表。早稲田大学教育学部卒。在学中に社労士試験に合格し、大手社労士法人に新卒入社。上場企業からベンチャー企業まで約10社ほどの顧問先を担当。その後、IT系のベンチャー企業にて、採用・労務など人事業務全般を担当。並行して、大手通信教育学校の社労士講座講師として講義サポートやテキスト執筆・校正などにも従事。現在は保有資格(社会保険労務士、AFP、産業カウンセラー)を活かしフリーランスの人事として複数の企業様のサポートをする傍ら、講師、Webライターなど幅広く活動中。


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