働き方

みなし残業制では、ゼッタイ残業しなくちゃいけないのか

投稿日:2021年6月3日 / by

「ウチはみなし残業で、あらかじめ残業代を払ってあるから」と言われたけれど…

いろいろ働き方が大きく変わりつつある昨今ですが、残業の仕方についても近頃は「みなし残業」として、会社側が、毎月一定時間の残業があることを想定しあらかじめ固定の残業代を支払う定額残業制を導入しているところが少なくありません。

このみなし残業については、効率よく仕事すれば得だと肯定的に捉える声がある一方、労働者にとっては定額使われ放題残業制度だと捉えられることもあるようです。

この定額残業制、実際はどのように運用されるべきものなのでしょうか? 三宅坂総合法律事務所の伊東亜矢子弁護士にお聞きしました。(powered by シェアしたくなる法律相談所

みなし残業はゼッタイ的な義務なのか

定額残業代をもらっていたら定時退社はNGなのか?

定額残業代が給与に組み込まれ支払われている場合、その時間分、必ず残業しなければならないのでしょうか? また、毎日定時退社で残業をまったくしないのは契約違反になるものでしょうか?

伊東弁護士「みなし(固定払い)残業代は、現実の残業が規則等で決めた時間分以下の場合は○○円払う、というものであり、“その分残業しなければならない”というものではありません」

定額残業制は「労働者の定額使い放題制と言われることもありますが、いくら残業をしても(実際の残業時間が定められた残業時間を越えた場合でも)追加の残業代はもらえないものなのでしょうか?

伊東弁護士「いいえ。超過分があればその分支払わなければなりません。実態としては、きちんと超過分を支払っていない会社もあるかもしれませんが、本来、“超過した場合は超過分については支払うこと”が固定払い残業代制度の有効性の要件となります。

きちんとタイムカード等で労働時間を管理していないと、この制度をとっていること自体が有効と認められない、ということになります」

きちんと運用されずに定額残業制=無限残業となってしまっている実態もあるようですが、一定時間を超過した分の残業代は支払われる決まりになっているのです。もし支払われていない場合は会社に確認すべきでしょう。

未消化のみなし時間は繰り越せるか?

「たとえば、みなし時間が月45時間と定められているものの30時間しか残業しない月があった場合、翌月に60時間の残業を定額残業代の中で行うことを求める」といったように、企業が社員に対して、残業がみなし時間分より少なかった月のみなし時間を、翌月に繰り越すことは可能なのでしょうか?

伊東弁護士「東京地裁平成21年3月28日判決では、“月単位の固定的な時間外手当の内払い”として“管理手当”を支給するものとし、『(現実の稼働時間に応じた金額と管理手当に)差額が発生した場合、不足分についてはこれを支給し、超過分について会社はこれを次月以降に繰り越すことができるものとする』とした会社の取扱について、時間外手当の内払いとして有効と認めています。

これをもとにすれば、繰り越しは可能とも言い得るところです。

もっとも、このケースでは繰り越しの適否そのものが争われたわけではありませんし、地方裁判所の一事例判決ですので、どんな場合でもこれによって全ての取扱が問題ないと言い切れるものではないと考えます。

むしろ、2019年に電通で起きた事件以降、長時間労働の取締が厳しくなる今、“残業をしないと損”になるような(そういう思いを従業員側に持たせるような)制度の作り方は、方向性として取らない方がよいのではないかと思われます。

また、実際の時間をチェックして超過分は繰り越し、という制度にする場合、これは“現実時間分ちょうどを毎月払う”という原則通りの対応と同じことになると思われ、企業側の管理コストも変わりません」

つまり、定額残業制の目的は企業側の管理の負担を減らすことにある、という解釈。

実際の残業が定められたみなし時間内の残業であれば、企業側は毎月の計算の必要がなく、労働者は実際の残業時間以上の残業代を受け取ることができるという、双方にメリットがある制度といえます。

しかし、残業時間がみなし時間を越えた場合、グレーな対応をする企業もあるのが実態です。残業時間の取扱が雇用契約書や就業規則などにどの記されているか今一度確認してみるべきではないでしょうか?

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*取材協力弁護士:伊東亜矢子(三宅坂総合法律事務所所属。 医療機関からの相談や、 人事労務問題を中心とした企業からの相談、離婚・ 男女間のトラブルに関する相談、 子どもの人権にかかわる相談を中心に扱う。)

*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。


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