
男性がトラブルなく育休を取るのに知っておくべきこと
「男が育休を取る」―まだまだ意識上のハードルが高い会社もあるようですが…
少子化対策も加速され、最近は男性が育児休業を取得するというケースも増えてきているようです。しかし、まだまだ男性が育児休業を取得すると宣言した場合、事業主からの理解が必ずしもスムーズに得られるとは限らないのが現状でしょう。
そこで、男性がスムーズに育児休業を取得するために必要な事について、「人事考課への影響」も含めて三宅坂総合法律事務所の伊東先生にお話を伺いました。(powered by シェアしたくなる法律相談所)
会社から取得を拒否されることとかあるの?
男性社員から育児休業を取得したい旨の申し出があった場合、会社としてはこれを拒むことは可能なのでしょうか。
伊東弁護士「育児・介護休業法上、育児休業をすることができる労働者は“女性“に限られていませんので、男性であっても同法に基づく育児休業を取得することはでき、男性からの申し出であっても会社はこれを拒むことはできません。」
男性であっても育休の取得に関しては、法的には女性と同等の保護が受けられるのですね。
育休取得が、人事考課に影響することは?
男性が育児休業を取得し職場復帰を果たした後、人事考課が不当に下げられたり、明らかに育休を取得したことを原因とするような降格や転勤命令などが職場から発令されたりした場合、法律上問題となりますでしょうか? また、実際に問題となる場合、社員側としてはこれら降格等の無効性をどのように主張するべきでしょうか。
伊東弁護士「育児・介護休業法上、事業主は、労働者が育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。その例として、厚生労働省の指針では、降格させること、不利益な配置の変更を行うことが挙げられており、明らかに育休を取得したことを原因として降格や転勤命令が発令された場合、法律上問題となり得ます。
社員側が行うべき具体的な解決策としては、“労働局に紛争解決援助を求める”“裁判所に労働審判又は裁判を提起する”などによって無効性を主張することが考えられます。」
育休の取得を理由として不利な扱いをすることは法律上も許されていないのですね。
万が一、不利益な扱いを受けてしまったら、どうすべきか
実際に不利益な扱いがトラブルとなり、裁判になった例はあるのでしょうか。
伊東弁護士「裁判での実務上の参考例として、最高裁平成26年10月23日判決は、妊娠中の軽易業務への転換をきっかけとする降格は、原則として法律で定める“不利益取扱い“に該当することになるものの…
…には“不利益取扱い”に当たらないとして原判決を破棄・差し戻しました。
差戻審では、広島高裁平成27年11月17日判決が、上記①②のいずれも認められないとして、降格措置は違法・無効であるとし、使用者に損害賠償責任があると判断しました」
つまり、自分の意思で降格することを認めたり、よほど特別な事情があったりする場合には“不利益な取扱い”と認められないケースも有るということでした。
これは原告が女性の場合の判例ではありましたが、法的な方針としては、“不利益な取扱い”に該当するかどうかはそれぞれの職場の状況によってケースバイケースであるとのこと。本人の意思に反していたり、業務上の必要性がなかったりする場合は、“不利益な取扱い”であると認定される場合が多いようですね。
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*取材協力弁護士:伊東亜矢子(三宅坂総合法律事務所所属。 医療機関からの相談や、 人事労務問題を中心とした企業からの相談、離婚・ 男女間のトラブルに関する相談、 子どもの人権にかかわる相談を中心に扱う。)
*取材・文:ライター 松永大輝(個人事務所Ad Libitum代表。早稲田大学教育学部卒。在学中に社労士試験に合格し、大手社労士法人に新卒入社。上場企業からベンチャー企業まで約10社ほどの顧問先を担当。その後、IT系のベンチャー企業にて、採用・労務など人事業務全般を担当。並行して、大手通信教育学校の社労士講座講師として講義サポートやテキスト執筆・校正などにも従事。現在は保有資格(社会保険労務士、AFP、産業カウンセラー)を活かしフリーランスの人事として複数の企業様のサポートをする傍ら、講師、Webライターなど幅広く活動中。
②降格せずに軽易な業務へ転換させることに業務上の必要性から支障があり、その必要性、降格措置による労働者への影響等に照らして均等法の趣旨・目的に実質的に違反しないものと認められる特段の事情のある場合