働き方

ウソの理由で有休を取得したら、法的な問題は生じるか

投稿日:2021年7月15日 / by

「なんとなく会社に行きたくない」とか正直に理由を言えない時もあるものだけど

会社員の皆さんのなかには、朝起きて気分が乗らなかったり、仕事がうまく行かず悩んでいたりで、「行きたくないなあ」と出勤前に感じたことがある人は、多いことでしょう。

もちろん、ほとんどの人が嫌々ながらも出勤していることと思いますが、嘘をついて休んだことがある人も、いるはずです。中には「家族が亡くなった」という“古典的なウソ”を口に出してしまうも人も少なくないようです。

このような行為は、法的に問題になるのでしょうか? 法律事務所あすかの冨本和男弁護士にお伺いしました。(powered by シェアしたくなる法律相談所

ウソの理由で有休をとったらどうなる?

嘘をついて有休を取得することについての問題点は?

冨本弁護士「問題があるとしたら、嘘をついて年次有給休暇(有休)をとることによって、職場内の秩序を乱したことが問題となります。有休は労働者に有給で与えられる休暇です。

有休は労働基準法によって認められた労働者の権利であり、いつ行使するか、何のために使うかは自由です。しかし、労働者の有給の行使が事業の正常な運営を妨げる場合、使用者は、他の時季に変更することが可能です。

嘘による有休の取得は、使用者が適正に時季変更権を行使するのを妨げますし、まかり通るようであれば職場の秩序が乱れるのは明らかです」

減給処分の妥当性は?

冨本弁護士「使用者は、職場の秩序を維持するために、職場の秩序を乱した者に対して懲戒処分を下すことができます。

ただし、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則に懲戒の種類と懲戒の事由を定めておく必要があります。

嘘をついて有給をとったことが、就業規則に定められた懲戒事由に該当し、懲戒処分として減給を定めているのであれば、減給することはできると考えられます。

もっとも、減給にも限界があります。1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならないし、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないとなっています(労働基準法91条)」

解雇されることはある?

冨本弁護士「クビにすることはできないと考えられます。使用者による懲戒権の行使も、対象となる労働者の行為の性質・態様その他の事情に照らして、それが客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利の濫用として無効となります。要するに、不相当に厳しい懲戒無効ということです。

嘘をついて有給を取ることは、確かに良くありませんが、そのことだけで解雇にするのは厳しすぎるわけです」

但し、それ以前に「理由を言う必要がない」?!

法的な問題が何か生じるとしたら、会社側の時季変更権のことも含めて、上記のようなことになります。が、それ以前に、「有給休暇を取得するのに、わざわざ理由を言う必要が無い」という法的解釈も存在します。休暇申請時に会社側へあえて伝えるなら「私用」などと伝えれば十分、ということです。
会社側から「それでは理由にならない」などと反論されたら、それは逆に労働者の休暇を取る権利や、プライバシーの侵害、さらにはパワハラにもつながる可能性も出てきます。

時季変更権(そのタイミングで社員に休まれると、会社の正常な運営に差しさわりがある場合に、会社が有休取得日を変更できる権利)に関わる場合に、会社が社員に理由を聞くことは法的に問題がないことは、上記で触れた通りですが、そこで社員が詳細な理由を言わないと有休が取得できない、とか、理由によって有休取得を拒否される、あるいは休暇のあとで不利益な扱いを受ける、などといった場合には、会社側が違法行為をなしたと判断される場合があるようです。

つまり、話を整理してまとめると
(1) 虚偽の理由による休暇は、就業規則に則って処分されることはあり得る。
(2) しかし本来、社員側は、理由を明確に申告する必要がない。
(3) あえて言う場合にも「私用」とのみ言えば良い。
(4) つまり、わざわざウソの理由を告げる必要が無い。

…ということになります。

万が一、この有給休暇取得で話がこじれるようなことがあるようだったら、社員は
●労働組合へ相談する
●労働基準監督署へ相談する
●弁護士に相談する
といった解決法もあるそうですので、万が一(本当に、万が一)そうなってしまったらこうした方法をとられてはいかがでしょうか。

▽オリジナル記事はコチラ

◆関連記事
有給取得で「査定に響く」「賞与が減る」…法的に問題はない?
有給休暇は1か月前に申請しろ…そんなに前から申請を義務付けるのは違法では?
あなたは分かる?「有給休暇」と「振替休日」の差とは

*取材協力弁護士:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)

*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)


読み物コンテンツ

働き方白書について
仕事相談室について
極楽仕事術について
三者三様について
戦略的転職について
用語集について