働き方

私の給料は安すぎないか?「違法な天引き」を見抜け

投稿日:2022年6月23日 / by

とくに初任給をもらい始めたばかりの人。「給料からの天引き」をよく見よう

4月に入社した新入社員のみなさんは、給与をもらうのは今月で3回目くらいでしょうか?
給与明細はしっかり見ていますか?

もしかしたら、なんだか見知らぬ項目で金額が引かれている…なんてことはありませんか!?

そんな状況に遭遇してしまった場合、法律的にはどのようなポイントに気をつけるべきでしょうか。解説していきたいと思います。(powered by シェアしたくなる法律相談所

給料からの違法な天引きを見抜け

給与については、労働基準法24条1項本文が「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と定めており(賃金全額払いの原則)、原則として賃金から積立金や貯蓄金等の名目で一部を留保したり、控除すること許されません

また、労働者がミスをしたことで会社に損害が発生したとして、その分(損害賠償分)を賃金から控除する会社をしばしば目にしますが、かかる相殺(不法行為・債務不履行に基づく損害賠償請求権と賃金債権の相殺)も労働基準法24条1項に反し、認められません。

控除の例外、つまり「合法的な天引き」もある

ただし、労働基準法24条1項但書は(1)「法令に別段の定めがある場合」、(2)「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合」(労使協定)には、賃金の一部を控除して支払うことを例外として認めています。

実際には、給与明細を見るといろいろな名目で賃金から控除されているわけですが、これはこの例外が複数あるからなんですね。

具体的には、(1)の場合として、所得税の源泉徴収(所得税法183条)、市町村民税の源泉徴収(地方税法321条の5)、厚生年金(厚生年金保険法84条)、健康保険料(健康保険法167条)、労働保険料(労働保険の保険料の徴収等に関する法律32条)などがあります。

これらは、使用者が法令に基いて労働者の賃金から控除し、行政官庁に引き渡しています。法令に基づいているものですから、会社によって異なるわけではありません。

労使協定による例外

これに対し、(2)の労使協定による例外は、「社宅費」、「寮費」、「共済会費」等様々で会社によって異なります。労使協定は会社ごとに異なるからですね。
ということで、賃金から(1)で挙げたもの以外が控除されている場合には労使協定を確認することが何よりも重要となります。

労使協定には「控除の対象となる具体的な項目」と「項目別に定める控除を行う賃金支払日」を記載すべきとの行政指導があり、使用者は労使協定を周知することを義務づけられています(労働基準法106条)。

労使協定は「労働者が見ようと思えば見られる状態」に置かれていないといけないわけですね。ここで、労使協定を見せてくれないような会社はいわゆる「ブラック企業」の可能性が高いと考えられます。

イザというときは法的手段を

そして、会社が労使協定を見せてくれない場合や労使協定に記載のない名目のものが控除されている場合には、会社に対して違法であることをはっきりと指摘し、会社が聞く耳を持たなければ、労働基準監督署・弁護士に相談することを検討すべきでしょう。

給与計算ミスによる賃金過払いの場合

なお、給与計算ミスによって賃金過払いがあった場合、その分を翌月の賃金から控除することは、労使協定がなくても原則として賃金全額払いの原則(労働基準法24条1項)に反しないとされています(これは「調整的相殺」と呼ばれています)。トータルでみると支払われるべき賃金が労働者に支払われているからです。

この点について、最高裁判例は「過払いのあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合」に過払賃金を控除することを認めています。

遅刻・欠勤の場合に減額されるのは?

また、労働者が遅刻したり、欠勤したりした場合にその分賃金が減らされることも、問題ありません。遅刻や欠勤による労務不提供の場合、遅刻・欠勤した分についてはそもそも賃金債権が発生していないからです(ノーワーク・ノーペイの原則)。

ただし、遅刻・欠勤したことで減らすことが許されているのは遅刻・欠勤した労働時間分だけであることに注意しましょう。

遅刻・欠勤したことのペナルティ(罰金)として、働かなかった時間分以上に控除することは許されません。
(就業規則において「減給」という懲戒処分が定められている場合には、懲戒処分として労働基準法91条に反しない限りで控除することは可能です。しかし、1、2回の遅刻で減給という懲戒処分を下すことは難しいでしょう)

余談ですが、キャバクラ等のいわゆる水商売と呼ばれる業種においては、遅刻・欠勤したことによるペナルティとして相当な金額を賃金から控除することが頻繁に行われているようですが、これは明らかに違法です。

以上、「違法な天引き」を見抜くために法律的におさえておくべきポイントをいくつかまとめてみました。予めこのような知識を蓄えておいて、せっかく与えた自分の労働が無駄にならないよう、気をつけていきましょう。

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*著者:弁護士 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています。)


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