
社員の大半を「取締役」にして残業代を払わなかった会社
「君は取締役だから残業代は無し」というこの会社、法的にアリなのか?
ある会社で社員の大半を取締役として選任し、残業代などを一切支払わなかったとして訴訟になったことがありました。
この会社では100人以上が取締役として選任されていたようですが、そもそも取締役の人数に制限はないのでしょうか?
また、取締役となった場合には残業代などが支払われなくとも問題はないのでしょうか?法的なところを調べてみました。(powered by シェアしたくなる法律相談所)
Q.取締役に人数制限はあるの?
A.定款に定めれば人数制限はありません。しかし、実態として取締役としての身分であると認められない場合には「従業員」として残業代支給の対象となります。
取締役とは、会社法に定めのある機関であり、すべての株式会社に必ず設置しなければなりません。
ただし、現在の会社法では定款に定めがあれば、取締役の人数に制限はありません。そのため、取締役が1名であっても、たとえ100人であっても、会社法的には特に問題はないことになります。
しかし、取締役となった場合、会社との関係は「委任契約」となり、「雇用契約」とは異なることから、原則として労働基準法は適用されません。
しかし、残業代の支払いを逃れるような目的で取締役に選任させているような場合、つまり取締役なのに業務を執行する権限(経営に関わる業務)がなかったり、出退勤について細かく管理されていたりするような場合は、その実態は労働者と変わらないため、いわば「名ばかり取締役」として労働者に該当し、残業代などの支払いの対象となります。
一時期「名ばかり管理職」というものが問題になりましたが、その本質は「名ばかり取締役」と異なることはなく、残業代の支給を逃れるために労働基準法の適用がされない取締役に選任させているため、「名ばかり管理職」よりもタチの悪い事件であるといえます。
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*取材・文:ライター 松永大輝(個人事務所Ad Libitum代表。早稲田大学教育学部卒。在学中に社労士試験に合格し、大手社労士法人に新卒入社。上場企業からベンチャー企業まで約10社ほどの顧問先を担当。その後、IT系のベンチャー企業にて、採用・労務など人事業務全般を担当。並行して、大手通信教育学校の社労士講座講師として講義サポートやテキスト執筆・校正などにも従事。現在は保有資格(社会保険労務士、AFP、産業カウンセラー)を活かしフリーランスの人事として複数の企業様のサポートをする傍ら、講師、Webライターなど幅広く活動中。)