
取れない有給休暇は買い取ってもらえる?会社による?
どうして休みが取れないの? 取れない「有休」は買い取ってもらえないの?
有給休暇は、会社に雇用された労働者に与えられた正当な権利です。原則的として社員が休みを希望すれば、業務の正常な運営を妨げる可能性がない限りは、休暇を取ることができる、というのが本来です。
しかし、日本の企業では業務が忙しいという状況や、あるいは雰囲気的に取りにくい、さらには「理由」を聞かれたうえで咎められ却下されるなどして有給休暇を取ることができず、溜め込むケースも少なくないようです。
労働者の側の人間としては、休暇取得の「理由」で、休みが取れる/取れないの違いが出てくることも、なにかモヤモヤしますし、制度として“有給休暇の日数”が与えられているのに、それが諸々の事情で、きちんとした休みとして「有休取得ができない」場合、その有給休暇をお金に換えてもらう、つまり買い取ってもらうことはできないものか、ということも気にかかります。
それらのことについて、企業法務に精通するパロス法律事務所の櫻町直樹弁護士にご意見を伺いました。(powered by シェアしたくなる法律相談所)
まず「理由」で休みが取れなくなるのは、合法なことなの?
有給休暇の「取得理由」についてお伺いしてみました。
(櫻町弁護士)「まず、取得の理由は何でもいいのかという点に関し、年次有給休暇を取得する理由については、法令上、特に制限はされていません。
過去に、ある官公庁の職員が年次有給休暇の取得を請求したところ、上長が請求を承認せず欠勤と処理した上で賃金を差し引いたことの当否が問題となった事案がありました。
最高裁判所は、
と述べています。(最高裁判所昭和48年3月2日判決・民集27巻2号191頁)。
つまり、労働者が「具体的な休暇の始期と終期を特定して時季指定」をすれば、使用者が「時季変更権」を行使しない限り、効果が発生(つまり、年次有給休暇として請求した日の労働義務が消滅し、出勤しなくてもよい)し、「使用者の「承認」の観念を容れる余地はない」ということは、そもそも、取得の理由を明らかにする必要もないということです。」
使用者が時季変更権を行使しないかぎり、取得理由を明らかにする必要はない。これが、法的に正しいところだとのことで、理由を聞いて取得を却下することはできないことになりますね。
では、「取れない有給休暇」をお金で買い取ってもらうことは?
企業によっては「買い取り」と言う形で金銭に換えてくれるところもあるようですが、企業によっては「買い取りNG」としているケースも少なくありません。
労働者としては有給休暇が取れないならお金にしてくれと考えることは当然。法律的に「NG」というのならば諦めもつきますが、NGとOKの会社が混在していることで、納得できない人もいるのではないでしょうか。
この件についても櫻町直樹弁護士にご意見を伺いました。
(櫻町弁護士)「年次有給休暇について、法令上、労働者に“買取請求権”が認められている訳ではなく、使用者側が(法的に)“買取義務を負う”ということもありません。
むしろ、年次有給休暇制度は、“労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりある生活の実現に資する”という趣旨で設けられているものですから、原則として買取りは認められないと考えるべきでしょう。
行政解釈においても、“年次有給休暇の買上げの予約をし、 これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じ、ないし請求された日数を与えないことは、法第39条の違反である”とされています(昭和30年11月30日基収第4718号)。
ですから、使用者としては、労働者がきちんと年次有給休暇を取得できるように職場環境等を整えることが望ましいといえるでしょう。
ただし、年次有給休暇制度の趣旨を損なうものではないといえる場合には、例外的に、使用者による買取りも認められると考えられています。
例えば、労働者が退職するにあたって取得しきれない(未消化の)年次有給休暇が発生する場合に、使用者が当該未消化部分を買い取る、といったことは、年次有給休暇制度の趣旨を損なわないものとして、認められるものと考えられます。
もっとも、年次有給休暇はあくまで“取得して心身を休めるため”のものですから、使用者は、“いざとなれば買い取ればよいから、十分に取得させられなくてもやむを得ない”などと安易に考えるべきではないでしょう」
“例外”として買い取りが認められるのは
「退職時に残っている有給休暇」や
「会社が、当初から法律で認められた日数を上回る有休を定めていて、その法定日数を上回る分の有給休暇」
…など、労働者が不利益を被らない範囲にのみに限られているようです。
それも会社側があらかじめ、就業規則に「有休休暇の買い取り」についての規定を取り決めている場合のみ。
原則は、「労働者に買取請求権があるわけではない。」「使用者にも義務がない」「だから、買い取りを主張することはできない」というところなのですね。
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*取材協力弁護士:櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)