働き方

苦痛をこらえて働く“経済損失”

投稿日:2013年5月31日 / by

腰の痛みがひどいワークスタイル研究室

働き方最前線リポート

疾病でも頑張る働き方の功罪

背部痛、疼痛、胃痛に悩まされている労働者は少なくない。しかし、それがどれほど深刻かを理解している人は、日本ではまだまだ少ないかもしれない。心血管疾患および癌などへの対処がしっかりとなされていることに比べると、こうした比較的軽度の筋骨格系障害(MSD)および疾病はどうしても軽視されがちだ。だが、その影響は、想像以上に大きいことを知っておいた方がいい…。


疾病による甚大な経済的損失

経済損失は2兆円背中が痛い、首から腕がしびれる…。オフィスワークに従事する人なら、とりたてて珍しくない症状だろう。もちろん、仕事を休むなど考えもしない。こうしたMSDといわれるような疾病の影響が、どれほどの経済的損失があるかを調べた調査がある。なんと、直接的な医療費だけでもその額は年間約2兆円、国民医療費の7.5%にも及ぶ。

疼痛による早期退職においては、約2,312億円が消失。いわゆる腰痛持ちの人が、そのQOL維持のために強いられる負担は、9,470億円と推定される。これらに加え、症状による生産性の低下なども考慮すれば、その損失額はさらに膨大なものになると推測されている。

高齢化が進み影響は深刻化

日本はすでに労働人口の高齢化が進んでおり、こうした症状に悩む人が増大傾向にある。2035年までに約30%の人口が、総医療費の70%を消費すると推定されている。そうなると、生産性の低下はもちろん、医療費の増大、税収の減少など、日本経済への影響はより深刻なものとなってしまう…。

対策を阻害する日本特有の事情

対策としては、個々の意識の向上が重要となるが、日本特有の事情から、うまくいきづらい側面があることは否定できない。まず第一に、そもそもMSDの定義が狭く、肉体労働者についてしか規定されていない点。第二に、病欠に関するデータが有給休暇による代用で、その精度が低い。第三に、心身の不調を言い出しにくい環境である。第四に、終身雇用モデルが労働市場を困難にしている。

病気になった時に言い出しにくい要因

こうした日本の文化的要因に根差した側面が、MSDへの対処の仕方をより難しいものにしている。

研究機関が提唱する3つの打開策

イギリス・ロンドンに拠点を置く、生産性と就労生活の質を高めることを目的に1918年に設立された「The Work Foundation」。同機関は、こうした状況を打開する対策として、以下の3つの提言を行う。

(1)MSD罹患率のデータ収集手法を標準化する
(2)早期診断と介入
(3)個人、雇用主、産業医、臨床医、政策立案者間での活動連携。

日本における対策

また、産業医科大学公衆衛生学教室・松田晋哉氏は、日本における「Fit For Work Service」の必要性を訴える。Fit For Work Serviceは、産業保健部門や各分野の専門家らと連携し、労働者に問題点の把握などを行い、臨床医と事業者の間に入ることで、的確な状況把握や情報提供などを円滑に行う役割を担う。こうした機関を設けることで、特に中小企業における地域産業保健事業の補完を強化し、見逃し・見落としを防止する。

疾病が労働生産性へ与える影響

実際に疾病がどの程度の労働生産性への影響を与えるのかを調査した事例もある。アストラゼネカが、慶應義塾大学医学部内科学(消化器)の鈴木秀和准教授と共同で、胸やけなどの胃食道逆流症(GERD)症状が与える労働生産性の影響を調査したもの。それによると、週一回以上のGERD症状が労働生産性の低下に関連していることや治療満足度の低下と労働生産性に関連があることなどが分かった。時間に換算するとその損失時間は、平均9.5時間/週だった。

喫緊の課題は身体管理システムの充実

自転車に乗る老人経済情勢が不透明な状況が続く中、大規模なリストラが続いている。このように職を失う恐怖が高まっている状況下においては、多少の体調不良では休みたくても休めない。しかし、無理をすることで結果的に生産性を下げ、会社に損失を与えることになる。これまでは、そうしたことは、重要視されず、ぼかされてきたが、会社のことも考えた正当な休養を取るためにも、個々人がこうした事実をしっかりと認識しておく必要がある。

日本では今後65歳を過ぎても働くことが、一般的になってくる。そうなれば、加齢によるやる気の喪失以上に身体の不調による生産性の低下が大きな課題となる。もちろん高齢者に限らず、若者および中高年でも精神疾患が増加の一途をたどっており、疾病による経済損失は深刻な問題になりかねない。ならないよう自己管理するのは当然だが、身体管理システムの充実・整備を図ることが、特に日本では今、労働力確保の観点からも喫緊の課題といえそうだ。


ローソンでの取り組み【企業の健康への取り組み:ローソン】
(株)ローソンは2012年12月25日より、社員の健康をサポートする制度として、賞与と連動したシステムを導入している。会社が実施する定期健康診断・人間ドックを1年間受診しなかった社員とその直属の上司には、翌年度5月末に支給される賞与から本人15%、直属の上司10%を減額する。また、受診後に再検査が必要と勧告された対象者が、再検査を受けない、もしくは数値改善に向けた取り組みを行わない場合は、同様に本人の賞与から状況に応じて2~8%、直属の上司は10%を減額する。

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