働き方

美容業界にも広がる働き方変革の波

投稿日:2016年3月11日 / by

着実に変化する美容室の働き方

美容室の世界にも働き方変革の波が押し寄せている。ファッションの最先端をいく一方で、経営面では前近代的ともいわれる美容室。そうした中、志願者減少が止まらない背景もあって、誰もが長く働き続けられる職場としての取り組みに着手するサロンがジワジワと増加。美容室の経営や働き方は、新たなステージへ向いつつある。

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美容師の前で業界の現状を解説するホットペッパービューティーアカデミー主席研究員・齊藤氏(右)

志願者が減る要因は?

店構えや仕事風景の華やかさ等の一方で、美容専門学校の志願者は2000年をピークに下降。人口減少ペースを上回る勢いで減少が加速している。その背景には、「精神的にキツイ」、「給与が低い」といった声に象徴されるように就労環境の厳しさもある。

ある現役美容師は「売り上げに対する取り分が少なく、拘束時間も長い。こうしたことが、『そういうものだから』、といった感じで刷り込まれてしまっている部分がある。特に若い子や女性にとっては、働き続ける上で厳しい環境といわざるを得ない実態はある」と打ち明ける。職人的な仕事でもあるため、ある程度厳しいのは仕方がないにしても、社会構造が変化してもなお、旧態依然では、職業として敬遠されても仕方がないといえる。

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出典:ホットペッパービューティーアカデミー「休眠美容師調査」

改革に乗り出す美容室

リクルートライフスタイル、ホットペッパービューティーアカデミー主席研究員の齋藤陽子氏は、こうしたことの問題点を次のように指摘する。「世は女性活躍の動きが活発ですが、美容業界も女性の活躍は重要事項。サービス面はもちろん、採用にも大きな影響があり、ブランディングの切り札にもなる。女性が長く働き続けられるサロン、というイメージは経営にも大きなチカラになるだけに、しっかり取り組まないと厳しい状況に直面するでしょう」。

柔軟な雇用体系で女性が働き続けられる環境を整備

こうした状況をサロン側ももちろん黙ってみているワケではない。危機感を覚えるサロンは、対策に乗り出している。都内を中心に22店舗を構える「anemone」では、柔軟な雇用体系とママスタッフの急な休みへのフォロー体制などで、女性スタッフが長く働き続けられる環境を整備。「日本一給料が高い会社」を目指すなど、社員の側に立った経営方針で、着実に規模を拡大している。

子育て中で、勤務時間・日数を減らしたい。でも安定も欲しい。そんなママ社員は、完全歩合のパート。結婚して、とにかく安定が欲しい場合は、週5日勤務、1日8時間の正社員として勤務。とにかく稼ぎたい人は、業務委託の完全歩合、といった具合に、同社では、社員が自分のライフプランや環境に応じ、契約体系を自在に選択できる。しかも、体系の変更は何度でも可能だ。

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ライフサイクルに応じて自在に選択できるanemoneの柔軟な雇用スタイル

このシステムの導入にあたっては、確定申告の仕方や社会保険の加入の仕方などを学ぶ講座も定期的に開催し、一社会人としての基礎もしっかり教育。安心して働き続けられるよう、側面支援も欠かさない。その結果、ママのお客様の満足度がアップ。若い女性スタッフにとってはロールモデルができるなど、さまざまな相乗効果が生まれ、いい流れがスパイラル。全体のムードもよくなっているという。

自立を促し、会社もしっかりと支援体制を構築

原宿、銀座、新宿、ニューヨークなどに店舗展開する「GARDEN」は、「自分で切り開く」という社風に沿いながら、会社が、社員の働き方と正面から向き合い、どう働いていくかを社員自らの意志で選択できる環境を整備。各自に訪れる様々なライフイベントを考慮した行動計画を可視化する仕組みを構築し、それに基づき、進路を定められる体制を整えた。美容師に限らず、進路設計に関してはどうしても受身になりがちだが、そこを十分にサポートすることで、気持ちよく、安心して働き続けられる環境を実現している。

特に成果が出ているのがママ社員で、出産後に復職するスタッフが徐々に増加。そうした店舗では、全体の一体感やメリハリがでて、全員が働きやすい環境になっているという。若手スタッフにとっては、職場にママ社員がいることは、数年後の自分のロールモデルをリアルに実感でき、働き続ける上での不安がやわらぐ。ママスタッフは、限られた時間でしっかりと結果を出すことを意識するようになり、時間管理が徹底される。

左からanemone松本代表、同新宿EM正岡氏、GARDEN加藤代表

左からanemone松本代表、同新宿EM正岡氏、GARDEN加藤代表

古い慣習を取り払い、どうすれば誰もが気持ちよく働き続けられるのか。従業員の側に立った環境改善に目を向けることで自然にできあがった働き続けやすい職場。会社が全体を俯瞰した上で、仕組みさえしっかりと構築すれば、環境は自ずと浄化される好例といえるだろう。

いいサービスを提供するためには、そこで働く社員が気持ちよく働けなければ、その実現は困難だ。志願者の減少や、社会構造の変化によって、これまではあまり目を向けてこられなかった部分にもメスが入り始めている。

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