クラウドソーシング時代に待ち受ける現実
美しい花にはとげがある――。
クラウドソーシングは、脅威でもあり、人材力を引き上げる画期的システムでもある。相反する面を持ち合わせながらも、普及した先には共通解として、とりわけ個人ワーカーにとっては厳しい現実を突きつけることになる…。
その理由は、クラウドソーシングの仕組みを考えれば、自ずと明確になる。まず、単純化するために100人がクラウドソーシングに登録したとしよう。均等に仕事が回り、2順、3順、4順…と回を重ねる。そのうちに当然ながら実力差が浮き彫りになる。
すると、クラウドソーシングサービスの登録リストでもその序列が可視化され、トップ層、中間層、最下層にスキルが分類される。パレートの法則ではないが、20人、60人、20人くらいの割合だろうか。上位はもっと少ないかもしれない。こうしたことは一般企業でも起こることだが、クラウドソーシングにおいては、その序列はよりシビアだ。
なぜなら、トップに仕事が集中するだけでなく、報酬にも差がつくからだ。上位20人には高報酬で質の高い案件が集中する一方、中間層以下は、ダンピング等で、割に合わない仕事を強いられることになる。最下層になれば、仕事にありつくことすら困難になるかもしれない…。
クラウドソーシングを利用する人の中にも生まれる格差
完全な成果報酬制の企業もあるが、それにしても一般企業ではなかなか表面化しづらい“格差”が、クラウドソーシング上では容赦なく、如実なまでに浮き彫りになる。
トップ層が会社員時代の倍以上の報酬を稼ぐ一方、最下層ではそれだけでは食べていけないレベルの人間も続出するだろう。普及度にもよるが、会社の売り上げ規模よりもクラウドソーシング全体の売り上げが上回るような時代になれば、「最下層のワーカーに対しては、国の補助が必要になる可能性もでてくるかもしれない。平均的に生産コストが下がることから、物価も総じて下がっていくだろう」(東京工業大学イノベーションマネジメント研究科・比嘉邦彦教授)という事態も現実になりかねない…。
こうした状況が、「豊か」といえるのかの判断は難しい。完全実力主義のギスギス感は避けられないからだ。一方では、会社という縛りがない“自由”もあり、考え方によっては、人生における一定の豊かさはある、といえるのかもしれない。そうした中にあって、改めて会社というスタイルの良さが見直されるケースも出てくるだろう。
迫りくるクラウドソーシング時代に向け、いま何をすべきなのか…。少なくとも個人レベルでは、好きなこと、興味のあること、なんでもいい。“武器”となるスキルを磨くこと。それを怠ることはイコール、最下層へと転落することであることはしっかりと認識しておく必要があるだろう。
第一回 クラウドソーシング革命がもたらす破壊的創造
第二回 アメリカの事例からクラウドソーシングを学ぶ
第三回 クラウドソーシングがもたらす労働市場への影響
第四回 労使双方にメリットをもたらすクラウドソーシング
第五回 クラウドソーシングに秘められた可能性
第六回 確実に世界中に浸透するクラウドソーシング
第七回 日本型クラウドソーシングとは
第八回 クラウドソーシングによる人材育成
第九回 クラウドソーシング時代に待ち受ける現実
第十回 クラウドソーシング時代に取り残されないために…
<東京工業大学 比嘉邦彦教授 プロフィール>
米国アリゾナ大学から1988年に経営情報システム専攻でPh.D.を修得。以来、同大学講師、ジョージア工科大学助教授、香港科学技術大学助教授を経て1996年に東京工業大学経営工学専攻助教授に、1999年より同大学理財工学研究センター教授。テレワークおよびクラウドソーシングをメインテーマとして、組織改革、地域活性化、e-コマースなどについて研究。それらの分野における論文を国内外の学術誌や国際会議などで多数執筆・発表。企業へのテレワーク導入ガイドブックの編集委員長、テレワーク推進フォーラム副会長を含めテレワーク関係省庁の各種委員会の委員および委員長を歴任。
最新著書紹介→『クラウドソーシングの衝撃 雇用流動化時代の働き方・雇い方革命』