
男の“妊婦体験”で女性の働きやすさを促進する会社
“妊婦”になってその辛さを体験する試み

疑似体験では、この状態で朝9時から17時の終業まで通常業務を遂行する
妊婦の辛さはならなきゃわからない…。アーノルド・シュワルツネッガー主演の映画「ジュニア」では、妊娠促進剤で男性が妊娠した。その中では、陣痛に苦しみながら、次第に母性に目覚めていく姿が描かれている。保険ショップ「保険クリニック」を運営するアイリックコーポレーションでは、男性役職者が、月替わりで1日妊婦を疑似体験することで、出産女性の辛さを体感。働く女性への理解を深めている。
体験者は、妊娠7か月相当の5キロの重りをお腹に装着する。その状態で、朝礼での体験報告に始まり、通常業務、会議、昼寝体験などを行う。映画のように陣痛は味わえないが、お腹に子供を宿している“重み”は、シッカリと感じられ、妊婦社員の気持ちや肉体的な負担を今まで以上に理解できるようになる。
「1 日装着した重みが背中から腰にかけてと、首回りにきています。 一番辛かったのは、朝礼の際などにずっと立っていること。 座っている時は、いつもより良い姿勢を保たないといけないと気づきました。猫背がちになるとお腹が圧迫される し、脚も組めませんでした。歩く時も、がに股でゆっくりになってしまう気持ちもよく分かりました。 男性と女性では元々の筋力が違うので何とも言えませんが、家事の中でも、買い物をこのお腹でするのは辛い と思いました。ずっと寝転がっていたくなりそうです。 産休取得予定者などが部下にいる人は、ぜひ体験してみてほしいです」。
こうしみじみと振り返ったのは、1日体験した同社取締役副社長でCOOの半澤勝弘氏。「倍返し」ならぬ、倍の思いやりが、妊婦社員に湧き出たようだ。同社では、この感覚を共有するため、毎月リレー形式で、男性役職者が疑似体験を継続していく。百聞は一見にしかず、というが、妊婦への思いは、百聞は一体験にしかずといったところだろう。
WEB調査では課題も浮き彫りに

言われたり、されて嫌だったこと、嬉しかったことはありますか? 『保険クリニック調べ』
同社では、妊婦の気持ちをより理解すべく、女性500人にWebアンケート調査も行っている。それによると、「妊娠中、職場で不当な取り扱いや嫌がらせはあったか」という質問に対し、全体の16%にあたる80人がマタハラにあっていた。その内の41.3%にあたる33人が解雇や契約打ち切りの話をされている。これらは契約社員、派遣社員などの非正規に多い傾向がみられた。
妊娠中の職場からの配慮については、「何もなかった」が42.6%と過半数にこそ達しなかったが、多い割合となった。一方、配慮があった人(287人)の中で多かったのは「重労働の免除」(50.9%)、「病院に行く時間の確保」(34.1%)、「勤務時間の短縮」(27.2%)となった。
妊娠後については、52%が「退職した」と回答。産休、育休を利用したのは39.2%だった。ただし、産休・育休利用者は、正社員61.2%に対し、契約など非正規では、わずか15.4%にとどまっている。これは、女性の仕事継続の現実を考えれば、大きな課題といえそうだ。
同社ではさらに、女性社員による座談会も実施。その中で、「40 歳以下でも共働き世帯は半数以上と言われているにも関わらず、妊娠による退職者が多いのは、 男性の長時間労働等により女性に負担がかかっている事も懸念される」という意見があった。これなどは、いまだはびこる男性中心社会の弊害といえそうだ。
女性が働き続けるにはまだまだ、十分といえない日本の労働環境。その要因にはやはり、男性中心で、女性への理解や配慮の少なさが残念ながら横たわる。イクメンも普及への動きが活発化するなど、少しずつ前進はしているが、ペースは極めて緩やかだ。妊娠がいかに大変かを知る同社の試みは、至ってシンプルだが、徹底することで、実は予想以上に大きな効果につながるのかもしれない…。