
介護と仕事の両立に立ちはだかる大きな問題とは

第三回会合では有識者のヒアリングが行われた
「今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会」の第三回会合が2014年12月19日、都内で開催された。この日は、有識者等からのヒアリングとして、3人から現状が報告された。
最初に東京海上日動ベターライフサービス(株)のシニアケアマネージャーで医療福祉学の博士の石山麗子氏が「介護の現場と実態」と題し、ケアマネージャーの立場から、介護と仕事両立の現状を報告した。
まず、要介護の認定者数が13年で約2.59倍に増加しているデータを明かし、近年その増加ペースが拡大していることを指摘。その上で、要介護の原因疾患において、認知症が増加傾向にあるデータを示した。これは、介護において、見守りが必要となることであり、仕事との両立が難しい状況となっていることを意味する。
さらに生涯未婚率が年々上昇し、3人に1人の割合にまで膨らんでいることを明かした。独身での親の介護となると、その負担はさらに重くなり、仕事との両立はますます困難になる。それだけに、今後、ケアマネージャーの役割が増すとともに、その質のさらなる向上も今後の課題であるとし、企業との連携の必要性を訴えた。
また、介護休業を取得した人の事例を紹介。40代前半の男性では、3週間の休みを取得し、ケアマネージャーと二人三脚で、介護する親がどのように過ごし、どのようなサービスを受けるのかを確認した上で、職場復帰が可能と判断し、介護休業を終えたケースを明かした。
一方で、介護休業を取得しなかった事例として、その理由を公開。「これから子供も私も生きていかなければならない。会社で不利な立場になりたくない。介護中であることは会社に伝えているが、遅刻早退、急な休みはとりたくない」という子育てと介護中の50代女性の切実な状況を報告した。30代後半の男性のケースでは、「賃貸住宅に住んでおり、家賃や生活費を稼がねばならず、働かないと生活できない。介護休業を取得する発想も浮かばなかった」という声を紹介した。
続いて、企業の実際の取り組みとして、日本電気の田代康彦人事部部長が、同社の仕事と介護の両立事例を報告。1990年から育児支援と介護支援への取り組みをスタートし、勤務配慮型から、経済支援型への移行を経て、2010年以降は特に介護において、両立支援施策へとそのスタイルが変遷していることを明かした。具体的なものとして、コミュニティ形成やセミナー実施等による介護者の孤立感・不安感の解消を行っていると報告した。
一方で、課題として、まだ介護関連制度についての活用事例が少なく、従業員の理解が進んでいないことや当事者が事情をオープンにしたがらないケースが多いため、介護に対する従業員のニーズをつかみづらいなどの点を挙げた。
最後に、老健局高齢者支援課認知症・虐待防止対策推進室の真子認知症ケアモデル推進官が「認知症施策の現状」を報告。65歳以上の高齢者で、認知症高齢者が約462万人、正常と認知症の中間の人が約400万人。計約862万人が認知症予備軍であるという平成24年のデータを示した。
その上で、認知症施策の方向性として、早期診断・早期対応、地域での生活を支える介護や医療サービスの構築、若年性認知症施策の強化、医療・介護サービスを担う人材育成などを挙げた。また、具体的施策として、認知症の人の家族をサポートする認知症カフェの取り組みや認知症に関する正しい知識を持つ認知症サポーターのキャラバン実施状況、認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)の進捗状況を報告した。
高齢社会だから、必ずしも仕事との両立が困難になり、介護離職が急増するワケではない。だが、介護の原因疾患が、骨折・転倒や衰弱でなく、認知症となると、事態は深刻になる。その数が増加傾向にあり、予備軍が800万人以上いるという現実は、仕事と介護の両立にとどまらず、地域や福祉とも密接に関連する社会全体の大きな課題にもなっている。決して他人事ではない。