
限定正社員はポスト正社員になれるのか
雇用シフト ~雇用流動化時代にフィットしたポスト正社員のカタチ~ 【その四】
「限定正社員」という正社員

深夜勤務限定の正社員なんていうのはちょっとパスですね
転勤はなし、工場勤務のみ、特定業務のみ…文字通り、業務を限定的に行う契約形態として昨今注目されているのが「限定正社員」だ。業務を限定している以外は、正社員という点が、ポイントだ。派遣や契約社員と違い、正社員なので、手厚い待遇はしっかり維持される。
誕生した背景には、優秀な人材確保という側面がある。例えば、ある企業で親の介護をしている社員がいたとする。現在の勤務地なら面倒を見れるが、転勤となれば不可能。離職を余儀なくされる。限定正社員では、そうした社員が、勤務エリアの限定という条件で安心して仕事を継続できる。
この形態の画期的な点は、従来の働き方にズブリとメスを入れていることだ。それはつまり、正社員は企業に絶対服従という不文律の打破だ。日本の企業は、さまざまな職種を経て、昇進するというシステムが根付いている。上に立つにあたって、いろいろな部門をみておくことが役立つという考えからだ。従って、転勤や部門間異動も頻繁に発生する。それを分断するのが限定正社員だ。
当然、報酬は減るし、昇進の芽も事実上摘まれることになる。だが、ビジネスパーソンの価値観も多様化する中で、働き方のひとつの選択肢として、非常に有用な形態であることは間違いない。なによりも、家庭の事情で働き続ける選択肢が限られている正社員にとっては、離職を回避できる新たな選択肢となり、ありがたい制度といえるだろう。
限定正社員の可能性と否定的意見
次世代の働き方の主流になりうる可能性も秘める限定正社員。だが、否定的な見方もある。「限定」故のリスクだ。つまり、限定がなくなれば、「解雇」ということだ。具体的には、A地区限定勤務の場合、そのエリアの支社が閉鎖になれば、働くベースがなくなることになり、社員は自ずと解雇になる。要するに、解雇しやすくする制度ではないか、という見方だ。
確かに理屈上は、そうなるかもしれない。しかし、現実的にそうした事態が起こった場合、当事者との話し合いの上、別の勤務地での就業を模索するのが常識的だろう。「限定」は当人の事情によるものということを考えれば、その当人が「仕方ない」とするのでなければ、解雇はさすがに無理がある。そもそも、契約する上でも、そうした条項には、納得のいくものが記されていなければおかしなことになる。
正社員と派遣・契約社員の間に位置する新たな雇用形態、「限定正社員」。導入企業が増えていく中で、課題や改善点も浮かび上がってくるだろうが、従来型の維持が困難になりつつある正社員の次なる形としては、有力候補のひとつであることは間違いないだろう。(第5回に続く)
その参→ 派遣社員は幸せになれるのか…
その弐→ 増殖する非正規→「正社員」の実態
その壱→ 正社員時代は終焉したのか