働き方

企業寮を複数企業でシェアするとどうなるのか

投稿日:2014年3月28日 / by

シェア型企業寮という試み

月島荘全景

『月島荘』
2014年1月に東京・月島にオープンした企業寮「月島荘」は、いわゆる企業寮とは少し異なる。企業寮を一社でなく複数企業でシェアするというスタイルだ。異なる企業の社員が「暮らし」そのものを共有してしまおうというユニークなコンセプト。その狙いと可能性は…。現地で探った。

企業寮の集合体

東京の下町・月島にデンと拠を構える月島荘。かつてボウリング場だった場所に再開発計画で建てられた8階建てのこの建物は、644部屋を擁する大型の企業寮。だが、通常の企業寮とは異なる点がある。入居する社員が、複数企業。つまり、企業寮の集合体なのだ。

月島荘

企業寮は、企業が社員のために用意する住居。つまり、1社限定が一般的だ。この月島荘には、4月までに200名近い社員が入居する予定だが、その契約企業は、17社(2014年3月現在)。様々な企業の社員が、「暮し」をシェアすることになる。

「都心のオフィス街への利便性がこの場所の最大の魅力。決して家賃が安いエリアではありませんが、職住近接のメリットを生かしつつ、できるだけ入居コストを抑えることを考え、出てきたアイディアが、寮という形。さらにこの場所を価値ある空間にしたかったので、一社だけでなく複数企業に借り上げていただくこの形になりました」とイヌイ倉庫・資材活用部の清水宏美氏は、誕生の経緯を説明する。

住室は最小限

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大企業が密集する丸の内界隈までならドアtoドアで20分圏内。超都心でありながら家賃設定は相場より低め。その分、住室はコンパクトで、浴槽がなくシャワーブースのみ。洗濯機置場もミニキッチンもない。だが、共用部には誰もが使える本格的なキッチン、大浴場、さらにラウンジやスタディルーム、70インチ大画面のシアタールーム、フィットネススペース…などの施設が揃い、ワンルームにはない圧倒的な豊かさを持つ。

共用施設は豪華絢爛

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なによりも大きな魅力は、複数企業の社員といつでも交流が図れる点だ。通常、他社の社員と仕事以外の場面でコミュニケーションをとる機会は、異業種交流会など、それなりの場に足を運ばない限りなかなかない。様々な企業の社員が同じ建物に暮らす同寮は、それこそ毎日が“異業種交流会”。豊富に設置される共用スペースは、コミュニケーションの場として最適であり、冬季五輪中は、大画面テレビの前に住人が集い日本選手に声援を送ることもあったという。

イヌイ倉庫・清水氏

イヌイ倉庫・清水氏

コンセプトは企業寮をシェアする試み

「月島荘のコンセプトは、“企業寮をシェアするという試み”。業種や職種、国籍、年代の異なる多様なビジネスパーソンが共に『暮らし』、お互いを高めあっていく場所を目指す試みです。そうしたこともあり、企業からは福利厚生というよりも人材育成という側面で期待していただいています」と清水氏。これまでにない試みには、社員個々人の成長につながる無限の可能性が秘められており、企業側も注目しているという。

入居者の化学反応引き起こす様々な施策

月島荘では、コンセプト具現化のために、成長拠点としての“土台”にもこだわる。そのひとつが、契約企業の選定だ。金融、家電メーカー、シンクタンク…など、都心を拠点とする有名企業の利用を促進することで、スキルアップを視野に入れ、まさに“高み”を目指すハイレベル人材の入居を促す。同じ志の者が、刺激しあい、より高みに到達するスパイラルを生み出す狙いだ。企業の選定には、寮の秩序を保つ意味合いもある。とはいえ、その門戸は、企業規模に関係なく開放されており、月島荘でも多様な企業の活用に期待を寄せる。

個人レベルでも成長を促進する仕組みを用意する。一つの企業から大量の入居がないよう、50人までの人数制限を設けているのがひとつ。クラスター制は、70人のいわばクラス分けで、多様な業種の入居者をバランスよく括り、クラス単位での日常的な交流を促す工夫だ。また、各クラスターには事業主であるイヌイ倉庫の社員が入居者の一人として加わっており、“触媒”として機能する。もっとも、各施策の目的はあくまで入居者の主体性を促すこと。従って、押しつけ感はなく、そっと背中を押すような力加減だ。

入居者が実感する“複合寮”の効果とは

集中して勉強するときに便利な仕切り付スタディルームは予約制

集中して勉強するときに便利な仕切り付スタディルームは予約制

入居者でもある清水氏は「ここに入ってこれまで片道1時間だった通勤時間がほとんどなくなり、より仕事に集中できるようになりました。往復で2時間の浮いた時間は施設を有効に活用して成長につなげたい。身近に他社社員がいることは刺激になるし、励みにもなる。いろいろなものを吸収して成長しようという気持ちになりますね」とその効果を打ち明ける。

職場を共有するコワーキングスペースが浸透し、ビジネスシーンでも有効活用されているが、月島荘は「暮らし」そのものを共有してしまおうという発想。職場以外で日常的に“異業種交流”が行われることで、どんな化学反応が起こるのかは未知数だが、人材育成の側面も含め、新しい企業“共創”の形につながる動きとして、その行く末が大いに注目されるチャレンジといえそうだ。

(施設画像=提供:イヌイ倉庫、撮影:SS東京 大野 賢一 ※スタディルーム除く)


share-domitory5【施設概要】 所在地 東京都中央区月島
敷地面積 6,647 ㎡
延床面積 23,423 ㎡
建物規模 地上 8 階/地下 1 階(3 棟構成)
総室数 644 室 着
事業施工者 イヌイ倉庫株式会社
設計監理 株式会社三菱地所設計
施工 東急建設株式会社
FFE 株式会社メック・デザイン・インターナショナル
管理 株式会社東急コミュニティー
企画コンサルティング 株式会社リビタ

URL:http://www.tsukishima-sou.com/

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